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個人事業主が人を雇うときの手続き|税金と社会保険で注意すべきこと

2026年1月20日

「事業が忙しくなってきたから、そろそろアルバイトを雇いたい」
「人を雇うと、税金や保険の手続きが大変って聞くけど本当?」
「個人事業主でも、社会保険に入らないといけないの?」

こんにちは。「税理士コラボネット」の小林です。一人で始めた事業が軌道に乗り、初めて従業員を雇うことになった。これは経営者として本当に喜ばしい成長のステップです。

しかし、ここで多くの個人事業主が直面するのが、「複雑すぎる雇用手続き」の壁です。
「どこに」「何を」「いつまでに」出せばいいのか。税務署だけではありません。労働基準監督署、ハローワーク、場合によっては年金事務所…。行くべき場所も書類も山積みです。

この記事では、初めて人を雇う個人事業主の方に向けて、必要な手続きを「税金」「労働保険」「社会保険」の3つの分野に分けて整理し、わかりやすく完全ガイドします。
特に個人事業主ならではの「社会保険の特例ルール(5人未満なら任意加入)」についても詳しく解説しますので、無駄なコストをかけずに、リスクのない雇用体制を整えましょう。

人を雇ったら何が必要?手続きの全体像を把握しよう

まずは、全体像をざっくり掴みましょう。人を雇うと、あなたの事業所は「雇用主」としての義務を負うことになります。

提出先は3箇所!「税務署」「労働基準監督署・ハローワーク」「年金事務所」

手続きを行う役所は、大きく分けて以下の3つです。

  • 税務署(税金): 給料から税金(所得税)を天引きして納めるための手続き。
  • 労働基準監督署・ハローワーク(労働保険): 仕事中の怪我や失業に備える保険の手続き。
  • 年金事務所(社会保険): 健康保険や厚生年金の手続き(※条件による)。

これらを、従業員を雇い入れたタイミング(またはその直後)に行う必要があります。

雇用形態(正社員・パート・家族)によって必要な手続きは変わる

雇う相手や働き方によって、必要な手続きは異なります。

  • 正社員(フルタイム): 原則としてすべての手続きが必要。
  • パート・アルバイト: 労働時間によって「雇用保険」や「社会保険」の加入義務が変わる。
  • 家族(青色事業専従者): 「労働保険」や「社会保険」の対象外になるケースが多い(※税務署への届出は必須)。

今回は、家族ではなく「他人(従業員)」を雇うケースを中心に解説します。
※家族を雇う場合はこちらをご覧ください:
個人事業主が家族に給料を払う「専従者給与」の節税効果と手続き

1.税金の手続き 税務署へ行く(源泉徴収の準備)

人を雇って給料を払うようになると、事業主には「源泉徴収義務(税金を天引きして国に納める義務)」が発生します。

必須!「給与支払事務所等の開設届出書」の提出

従業員を雇ってから1ヶ月以内に、所轄の税務署へ「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。
これは、「私の事業所はこれから給料を払いますよ(源泉徴収義務者になりますよ)」という宣言です。手数料はかかりませんし、郵送やe-Taxでも提出可能です。
参照:[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出 | 国税庁

源泉徴収した税金を年2回にまとめる「納期の特例」がおすすめ

通常、従業員の給料から天引きした所得税は、「翌月10日」までに毎月銀行で納付しなければなりません。これは毎月の事務作業として非常に負担が大きいです。

そこで、従業員が常時10人未満の小規模な事業所であれば、「源泉所得税の納期の特例の承認申請書」を提出することをおすすめします。
これを出しておけば、納付が年2回(7月と1月)だけで済むようになります。資金繰りや事務の手間が大幅に楽になるので、開設届と一緒に必ず提出しておきましょう。

2.労働保険の手続き 労基署・ハローワークへ行く

次に、働く人を守るための「労働保険(労災保険+雇用保険)」の手続きです。ここは従業員のためにも絶対に漏らしてはいけない部分です。

「労災保険」は1人でも雇えば絶対加入(パート・バイト含む)

労災保険は、仕事中や通勤中の怪我・病気を補償する制度です。
雇用形態や労働時間に関係なく、1人でも雇ったら強制加入です。たとえ週1回のアルバイトでも、1日だけの単発バイトでも対象になります。
保険料は全額「事業主負担」ですが、金額は給与総額の数%(業種による、ITや飲食なら数千円程度〜)とそれほど高くありません。

  • 提出先: 所轄の労働基準監督署
  • 書類: 「労働保険関係成立届」「労働保険概算保険料申告書」
  • 期限: 雇用してから10日以内(申告書は50日以内)

参照:労働保険の成立手続 | 厚生労働省

「雇用保険」は週20時間以上などの条件あり

雇用保険は、失業したときの手当(失業保険)などのための制度です。
以下の条件を両方満たす従業員を雇う場合に加入義務があります。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上引き続き雇用される見込みがあること

保険料は事業主と従業員で負担します(給与から天引き)。

  • 提出先: 所轄のハローワーク(公共職業安定所)
  • 書類: 「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」
  • 期限: 設置届は10日以内、資格取得届は翌月10日まで

※先に労基署で労災の手続きを終えてからでないと、ハローワークの手続きはできません。

3.社会保険の手続き 年金事務所へ行く(※個人事業主の特例)

最後に、健康保険と厚生年金(社会保険)です。ここが法人とは大きく異なるポイントです。

ここが法人と違う!従業員「5人未満」なら加入しなくてOK?(任意適用)

法人の場合、社長1人でも社会保険は強制加入です。しかし、個人事業主の場合、従業員が常時5人未満であれば、社会保険への加入は「任意(義務ではない)」とされています(※一部業種を除く)。

つまり、従業員が1人〜4人のうちは、事業所として社会保険に入らなくても違法ではありません。従業員は自分で「国民健康保険」と「国民年金」に加入し続けることになります。
これは、社会保険料の会社負担(給与の約15%)が重いため、小規模な個人事業主に配慮された特例措置です。

強制加入になる条件(5人以上&特定業種)とは

以下の条件を満たすと、個人事業主でも社会保険への加入が義務(強制適用)になります。

  • 従業員が常時5人以上いること
  • 法定業種であること(製造業、建設業、物品販売業、飲食業、美容業など大半の業種)

※注意:以前は「飲食業」や「理美容業」などは5人以上でも任意適用(非適用業種)でしたが、法改正の議論が進んでいます。最新の情報を常に確認してください。現時点では、サービス業の一部(飲食・理容・旅館など)は5人以上でも強制適用ではありませんが、製造や販売、ITなどは5人以上で強制加入です。

あえて加入する(任意適用事業所になる)メリット・デメリット

5人未満でも、従業員の同意を得て申請すれば、社会保険に加入する(任意適用事業所になる)ことができます。

  • メリット: 従業員にとって手厚い保障(厚生年金、傷病手当金など)があるため、採用で有利になる。従業員の定着率が上がる。
  • デメリット: 事業主の金銭的負担が激増する(保険料の半分を会社が負担するため)。事務手続きの手間が増える。

資金繰りに余裕ができ、優秀な人材を確保したいフェーズになったら検討すると良いでしょう。

雇う前に知っておきたいお金とルールの注意点

手続き以外にも、人を雇う前に覚悟しておくべきことがあります。

法定福利費(会社負担分)は給与の約15%~を見込んでおく

人を雇うコストは「給料」だけではありません。
労災保険、雇用保険、そしてもし社会保険に加入する場合は、会社が負担する保険料(法定福利費)が発生します。
社会保険に加入する場合、給与額の約15%程度が会社負担として上乗せされます(月給20万円なら約3万円の会社負担)。この「見えないコスト」を計算に入れておかないと、資金繰りがショートしてしまいます。

雇用契約書(労働条件通知書)は必ず作成しよう

口約束での雇用はトラブルの元です。「時給」「労働時間」「休日」「契約期間」などを明記した「労働条件通知書(兼 雇用契約書)」を作成し、本人に渡すことが労働基準法で義務付けられています。
ひな形は厚生労働省のサイトなどからダウンロードできますので、必ず作成して署名をもらいましょう。

最低賃金の確認とマイナンバーの取得

  • 最低賃金: 都道府県ごとに決められています。必ず最新の金額(毎年10月頃改定)を確認し、それを下回らないようにしましょう。
  • マイナンバー: 税金や保険の手続きで必要になります。採用時に必ず従業員(および扶養家族)のマイナンバーを提出してもらい、厳重に管理してください。

「個人事業主の雇用手続き」まとめ

  • 税務署:「給与支払事務所等の開設届出書」と「納期の特例」を出す。
  • 労基署:1人でも雇ったら「労災保険」の手続きをする(必須)。
  • ハローワーク:週20時間以上なら「雇用保険」の手続きをする。
  • 年金事務所:5人未満なら社会保険は任意(入らなくてもOK)。5人以上&法定業種なら強制加入。
  • 準備:雇用契約書を作成し、マイナンバーを取得する。

「人を雇う」ということは、その人の生活の一部を背負うということです。
手続きは確かに面倒ですが、これらをしっかり行うことが、従業員との信頼関係を築き、事業を長く成長させるための土台となります。
クラウド給与ソフトなどを活用すれば、面倒な計算や書類作成もかなり楽になりますので、ぜひ活用してみてください。

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「人を雇うとき」に関するよくある質問

A.はい、必要です。労災保険は、労働時間や雇用期間に関係なく、従業員を1人でも、1時間でも雇った時点で加入義務が発生します。万が一、その1日の仕事中に怪我をした場合、労災保険に入っていないと事業主が多額の補償をしなければならないリスクがあります。

A.大きく違います。家族(同居の親族)は原則として「労働者」とはみなされないため、労災保険や雇用保険には加入できません。 税務署への「青色事業専従者給与に関する届出」だけで済みます。ただし、他人従業員と一緒に同じ条件で働いているなど、実態として労働者性が強い場合は、例外的に労災保険に加入できる制度(特別加入ではありませんが、労働者として扱われるケース)もあります。

A.税金: 月額88,000円以上なら源泉徴収が必要です。ただし「扶養控除等申告書」を提出し、年収103万円以下なら所得税はかかりません。
労災保険: 必須です。
雇用保険: 昼間学生(大学生・高校生)は原則として対象外(加入不要)です。ただし、夜間学生や休学中の学生は加入対象になります。
社会保険: 加入要件を満たせば対象になりますが、学生は対象外となるケースが多いです。

A.はい、現状の法律では、個人事業主で従業員が常時5人未満であれば、強制適用事業所にはなりませんので、加入しなくても違法ではありません。ただし、従業員から「社保に入りたい」という要望が出る可能性はありますし、採用競争力においては不利になる場合があります。

A.ハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出し、離職票を発行します(本人が希望する場合)。また、源泉徴収票を作成して本人に渡します。社会保険に入っている場合は、年金事務所で「資格喪失届」の手続きと保険証の回収・返却が必要です。

A.気づいた時点ですぐに税務署へ提出してください。提出が遅れても罰則は特にありませんが、源泉徴収した税金を納付していない場合は問題になります。過去に遡って納付書を作成し、納める必要があります。

A.労働基準法により、賃金や労働時間などの重要事項を書面(労働条件通知書)で明示することが義務付けられています。契約書という形をとらなくても、通知書を渡せば最低限の義務は果たせますが、トラブル防止のためには双方が署名捺印する「雇用契約書」を作成するのがベストです。書面交付がないと、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

A.マイナンバーは「特定個人情報」として、非常に厳格な管理が求められます。鍵のかかる引き出し(金庫)で保管するか、セキュリティ対策がされた人事労務ソフト(クラウド)上で管理する必要があります。不要になったら速やかに廃棄・削除しなければなりません。

A.はい、業務委託契約であれば、相手は「従業員」ではなく「独立した事業主」となるため、労働保険や社会保険の手続きは一切不要です。源泉徴収も、特定の業種(デザイン、原稿料など)以外は不要です。ただし、実態が雇用と同じ(指揮命令下にある、時間が拘束されている等)だと判断されると、後から「偽装請負」として保険料等を徴収されるリスクがあるため注意が必要です。

A.税金(源泉徴収・年末調整)の手続きは「税理士」に、労働保険・社会保険の手続きは「社会保険労務士(社労士)」に依頼します。顧問税理士がいる場合は、提携している社労士を紹介してもらうのがスムーズです。給与計算はどちらも対応可能な場合があります。
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