個人事業主のための『ふるさと納税』活用術|上限額の計算方法も解説

「個人事業主もふるさと納税ってお得なの?」「会社員と違って、自分の限度額がいくらかわからない…」「確定申告でどうやって手続きすればいいの?」
こんにちは。「税理士コラボネット」の小林です。実質2,000円の負担で各地の名産品がもらえる「ふるさと納税」。テレビや雑誌でも話題ですが、個人事業主の方からは「仕組みがよくわからなくて手を出せていない」という声をよく聞きます。
特に悩ましいのが、「限度額(上限額)」の計算です。給与が決まっている会社員とは違い、個人事業主はその年の利益(所得)が確定するまで正確な税額が見えません。「寄附しすぎて損をしたくない」と躊躇してしまうのも無理はありません。
この記事では、個人事業主がふるさと納税をフル活用するための「限度額の計算ロジック」や「確定申告での正しい手続き」、そして「経費にはならない」といった勘違いしやすいポイントまで、専門家の視点から分かりやすく解説します。
目次
個人事業主こそ「ふるさと納税」!会社員との違いを解説
まず、個人事業主がふるさと納税を行うメリットと、会社員との手続きの違いを整理しましょう。
メリットは同じ(返礼品+税金控除)だが、手続きが違う
ふるさと納税のメリットは、会社員でも個人事業主でも変わりません。
自治体に寄附をすることで、「寄附額-2,000円」が翌年の税金(住民税と所得税)から控除され、さらに返礼品がもらえます。つまり、税金の前払いをするだけで、お肉やお米、旅行券などが手に入る「やらないと損」な制度です。
しかし、手続きの方法には大きな違いがあります。
- 会社員: 「ワンストップ特例制度」を使えば、確定申告なしで手続き完了。
- 個人事業主: 原則として「確定申告」の中で寄附金控除の手続きが必要。
最大の注意点:確定申告をするなら「ワンストップ特例」は無効
ここが最も間違いやすいポイントです。
ふるさと納税には、確定申告不要で控除が受けられる「ワンストップ特例制度」があります。しかし、この制度は「確定申告を行わない人」が対象です。
個人事業主の方は、事業の売上や経費を報告するために、基本的に毎年確定申告を行いますよね?
確定申告書を提出した時点で、ワンストップ特例の申請はすべて「無効」になります。
もし、「ワンストップ特例の申請書を出したから安心」と思って確定申告書にふるさと納税の内容を書かずに提出してしまうと、税金は1円も安くなりません(単なる寄附になります)。
個人事業主の方は、「ワンストップ特例は使えない(使っても無効になる)」と覚えておき、必ず確定申告書で申告するようにしましょう。
私の上限はいくら?個人事業主の限度額シミュレーション
ふるさと納税で最も重要なのが、「いくらまで寄附できるか(控除上限額)」を知ることです。上限を超えた分は、自己負担(純粋な寄附)になってしまうからです。
会社員より計算が複雑?「その年の所得」予測が必要
会社員なら「去年の源泉徴収票」を見ればおおよその上限がわかりますが、個人事業主はそうはいきません。
ふるさと納税の上限額は、「寄附を行う年(1月~12月)の所得」に基づいて決まります。つまり、まだ確定していない「今年の利益」を予測して計算しなければならないのです。
正確な計算は複雑ですが、ここではざっくりと目安を知るための3ステップ計算式をご紹介します。
計算ステップ1:今年の「課税所得」を見積もる
まずは、今年の利益がどのくらいになるか予測します。
- 売上 - 必要経費 - 青色申告特別控除(65万円など) = 事業所得
- 事業所得 - 各種控除(基礎控除48万円、社会保険料控除、扶養控除など) = 課税所得
この「課税所得」が計算のベースになります。
計算ステップ2:住民税所得割額(課税所得×10%)を算出する
次に、住民税の「所得割額」を計算します。これは単純に課税所得の10%です。
例:課税所得が300万円なら、30万円。
計算ステップ3:目安は「住民税所得割額の約2割」
ふるさと納税の限度額(自己負担2,000円で済む上限)は、一般的に「住民税所得割額の約20%」と言われています。
【簡易計算式】
- 限度額 ≒ (課税所得 × 10%) × 20%
- つまり、課税所得 × 2% 程度が目安です。
※正確には所得税率によって変動します(所得が高い人は所得税率が上がるため、限度額も上がります)。各ふるさと納税サイトの「詳細シミュレーション」で、個人事業主向けの計算を行うのが最も確実です。
青色申告特別控除やiDeCoがある場合の影響
節税対策をしっかり行っている人ほど、ふるさと納税の上限額は下がります。
- 青色申告(65万円控除): 課税所得が減るため、上限額も下がります。
- iDeCo(小規模企業共済): 掛金全額が控除になるため、課税所得が減り、上限額も下がります。
- 医療費控除: たくさん医療費がかかった年は、上限額が下がります。
「節税すればするほど、ふるさと納税の枠は減る」というジレンマですが、トータルでの税金は安くなっているので損ではありません。これらを考慮してシミュレーションすることが重要です。
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勘違いしやすい!「経費」にはならないので注意

「ふるさと納税のお金は、事業の経費になりますか?」という質問もよくいただきますが、答えはNOです。
勘定科目は「事業主貸」。事業の経費ではなく個人的な支出
ふるさと納税は、事業主個人が自治体に寄附を行う行為であり、事業活動とは関係がありません。そのため、「租税公課」や「寄附金」として経費にすることはできません。
会計ソフトに入力する場合は、「事業主貸(じぎょうぬしかし)」という勘定科目を使います。これは「事業用のお金を、プライベートな目的で使った」という意味です。
仕訳の具体例
事業用の銀行口座から、ふるさと納税3万円を振り込んだ場合:
- (借方)事業主貸 30,000円 / (貸方)普通預金 30,000円
- 摘要:ふるさと納税(〇〇市)
もし個人のクレジットカードや個人口座から支払った場合は、事業の帳簿につける必要すらありません(確定申告書の控除欄に書くだけでOKです)。
失敗しない!個人事業主のふるさと納税・確定申告4ステップ
では、実際にどのような流れで進めればよいのか、4つのステップで解説します。
1. 1月~12月に寄附を行い、「寄附金受領証明書」を保管する
まずは、シミュレーションした限度額の範囲内で寄附を行います。
寄附をすると、後日自治体から「寄附金受領証明書」が送られてきます。これは確定申告で必ず必要になる「領収書」のようなものです。返礼品とは別に届くこともあるので、絶対に捨てずに保管してください。
※最近は、ふるさと納税サイトが発行する「寄附金控除に関する証明書(年間取引報告書のようなもの)」1枚で済む場合も増えています(e-Taxならデータ連携も可能)。
参照:ふるさと納税ポータルサイト | 総務省
2. 12月末に所得を再計算し、限度額ギリギリまで追加寄附
個人事業主の所得は年末まで変動します。12月に入ったら、今年の売上と経費をほぼ確定させ、再度正確なシミュレーションを行いましょう。
もし「思ったより利益が出た(限度額枠が余っている)」なら、年末駆け込みで追加の寄附をして、枠を使い切るのが賢い方法です。
3. 確定申告書の「寄附金控除」欄に入力する
年が明け、確定申告書を作成する際に、ふるさと納税の内容を入力します。
- 寄附金控除: 寄附した合計額 - 2,000円
- 住民税に関する事項: 「都道府県、市区町村への寄附(特例控除対象)」の欄に寄附額を記載
クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生など)を使っていれば、「ふるさと納税をしましたか?」という質問に答えて金額を入力するだけで、自動的に正しい場所に記載してくれます。
4. 申告書を提出(証明書の添付をお忘れなく)
完成した申告書を税務署に提出します。この際、保管しておいた「寄附金受領証明書」を添付(または提示)する必要があります。
e-Tax(電子申告)の場合は、証明書の添付を省略できる(5年間保存)か、XMLデータを送信することで対応できます。
参照:No.1155 ふるさと納税(寄附金控除) | 国税庁
「個人事業主のふるさと納税」まとめ
- 原則:個人事業主は確定申告が必須。「ワンストップ特例」は使えない(無効になる)。
- 上限:「今年の所得」で決まるため予測が必要。青色申告やiDeCoがあると枠は減る。
- 経費:ふるさと納税は経費にならない。勘定科目は「事業主貸」。
- 手順:12月に最終シミュレーションをして枠を使い切り、確定申告書に忘れず記載する。
- 結論:手続きは少し手間だが、実質2,000円で返礼品がもらえるメリットは絶大。やらない手はない。
個人事業主にとって、ふるさと納税は「自分へのボーナス」のようなものです。
正しい知識を持って活用すれば、税金の支払いが少し楽しみになるかもしれません。ぜひ、今年の確定申告からチャレンジしてみてください。
「個人事業主のふるさと納税」に関するよくある質問
はい、大丈夫です。ただし、確定申告書を提出すると、先に提出したワンストップ特例申請書は自動的に「無効」になります。そのため、確定申告書には、ワンストップ申請した分も含めて「全てのふるさと納税額」を記載し、寄附金控除の手続きをやり直す必要があります。これを忘れると控除が受けられないので注意してください。
いいえ、経費にはなりません。事業とは無関係な個人的な支出とみなされます。事業用口座から支払った場合は、勘定科目「事業主貸」で処理します。個人の財布や個人口座から支払った場合は、事業の帳簿につける必要はありません。
限度額を超えた分については、自己負担2,000円で済む特例控除が適用されず、単なる「寄附」扱いになります。通常の寄附金控除(所得控除)の対象にはなりますが、税金が戻ってくる割合は低くなるため、実質的な自己負担額が増えてしまいます(高い買い物になってしまいます)。
基本的にはありません。ふるさと納税は「払うべき税金」から控除される仕組みなので、赤字で税金(所得税・住民税)がゼロの場合は、控除するものがなく、単に全額自己負担で寄附をしたことになります。返礼品が欲しい場合でも、普通に買った方が安いケースがほとんどです。
「今年(寄附を行う年)」の所得です。例えば、2025年にふるさと納税をするなら、2025年1月~12月の所得に基づいて限度額が決まります。住民税の通知(6月頃)に来る額は「去年」の所得に基づくものなので、それを参考にしつつ、今年の業績を加味して予測する必要があります。
寄附をした翌年の6月から支払う住民税から控除されます。毎年5月~6月頃に自治体から届く「住民税決定通知書」の摘要欄や税額控除欄に、「寄附金税額控除」などの名目で記載されています。正しく控除されているか必ず確認しましょう。
はい、変わります(下がります)。医療費控除やiDeCo(小規模企業共済等掛金控除)は、課税所得を減らす効果があります。課税所得が減ると、それを基準に計算される住民税所得割額も減るため、結果としてふるさと納税の限度額も少なくなります。シミュレーション時はこれらも入力して計算してください。
はい、影響します。青色申告特別控除は課税所得を大きく減らすため、ふるさと納税の限度額も下がります。ただし、それ以上に本税(所得税・住民税)が安くなるメリットの方がはるかに大きいので、青色申告を止める理由にはなりません。
妻(専従者)にご自身の名義で税金が発生するほどの給与収入がある場合は、妻名義でふるさと納税が可能です。ただし、専従者給与が月8万円(年96万円)程度で、所得税も住民税もかかっていない場合は、控除する税金がないためメリットはありません。夫(事業主)名義で行うのが一般的です。
「さとふる」「ふるさとチョイス」「楽天ふるさと納税」などの大手ポータルサイトには、詳細なシミュレーション機能があります。「個人事業主」や「青色申告」などの項目を選択できる詳細版を使うと、より正確な目安を知ることができます。





