小規模企業共済とiDeCo、どっちがお得?個人事業主の退職金作り

「将来の年金が少なくて不安。自分で退職金を作りたいけど、何から始めればいい?」「小規模企業共済とiDeCo、両方節税になるって聞くけど、どっちがお得なの?」「資金繰りが厳しくなったらどうしよう?一度始めたら止められないの?」
こんにちは。「税理士コラボネット」の小林です。会社員には厚生年金や退職金がありますが、個人事業主にはそれがありません。老後の生活を守るためには、自分で資金を準備する必要があります。
そこで強力な味方となるのが、国の制度である「小規模企業共済」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。どちらも掛金が全額控除になる最強の節税ツールですが、それぞれに特徴があり、「どちらを優先すべきか」は事業の状況によって異なります。
この記事では、この2つの制度を徹底比較し、個人事業主が選ぶべき「最強の退職金ポートフォリオ」を提案します。
「とりあえずiDeCoを始めたけど、実は小規模企業共済の方が合っていた…」と後悔しないよう、それぞれのメリット・デメリットと出口戦略(受け取り方)までしっかり解説します。
目次
個人事業主の退職金問題、「小規模企業共済」と「iDeCo」で解決!
まず、なぜこの2つの制度が個人事業主に選ばれているのか、その共通点と決定的な違いを理解しましょう。
そもそも、なぜこの2つが最強の節税策なのか?(全額所得控除)
NISA(ニーサ)などの投資制度との最大の違いは、「掛金が全額所得控除になる」という点です。
- NISA: 利益にかかる税金がゼロになる(運用益非課税)。
- 小規模企業共済・iDeCo: 掛金そのものが所得から引かれるため、今年の税金(所得税・住民税)が安くなる。
例えば、課税所得400万円(税率約30%)の人が月5万円積み立てると、年間で約18万円も税金が安くなります。積み立てるだけで利回り30%が確定しているようなものであり、やらない手はありません。
結論から言うと…「資金の自由度」で選ぶのが正解
両方満額やるのが理想ですが、資金に限りがある場合、どちらを優先すべきか。
結論は、「小規模企業共済」を優先すべきです。
理由はシンプルで、「資金の流動性(いざという時に現金化できるか)」に圧倒的な差があるからです。個人事業主は収入が不安定になりがちなので、この「自由度」が命綱になります。
【徹底比較】小規模企業共済 vs iDeCo スペック一覧表
まずは2つの制度のスペックを比較してみましょう。
| 比較項目 | 小規模企業共済 | iDeCo (イデコ) |
|---|---|---|
| 掛金上限(月額) | 70,000円 (年84万円) |
68,000円 (年81.6万円) |
| 節税効果 | 掛金全額控除 | 掛金全額控除 |
| 運用商品 | 元本保証 (予定利率1.0%程度) |
投資信託 (元本変動あり) |
| 途中解約 | 可能 (20年未満は元本割れ) |
原則不可 (60歳までロック) |
| 資金調達 | 貸付制度あり (即日融資可) |
なし |
| 受取時の税制 | 退職所得扱い | 退職所得扱い |
小規模企業共済のメリット・デメリット

「経営者の退職金制度」と呼ばれる小規模企業共済。その実力を見ていきましょう。
メリット:安心の元本保証と「貸付制度」で資金繰りもカバー
最大のメリットは、積み立てた掛金の範囲内で事業資金を借り入れできる「契約者貸付制度」があることです。
無担保・無保証人で、最短即日で借りられるため、急な支払いやつなぎ資金が必要になったときに非常に助かります。銀行融資よりも圧倒的に手軽な「会社のお守り」になります。
また、運用は安全確実に行われるため、基本的に元本割れのリスクが低く(解約手当金は20年以上で元本以上)、計画的に資産形成ができます。
デメリット:加入期間が短い(20年未満)と元本割れのリスク
途中解約(任意解約)が可能ですが、加入期間が20年未満(240ヶ月未満)で解約すると、戻ってくるお金が掛金総額を下回ります(元本割れ)。
ただし、「廃業」して受け取る場合は、期間に関係なく(6ヶ月以上あれば)元本割れしません。あくまで「事業を続けているのに辞める(任意解約)」場合のペナルティです。
おすすめな人:事業資金の融通も確保したい人
「今は余裕があるけど、将来資金繰りが厳しくなるかもしれない」という不安がある方は、解約や貸付ができる小規模企業共済が安心です。
iDeCo(イデコ)のメリット・デメリット
次に、老後資金作りの王道、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。
メリット:運用益が非課税!投資効果で資産を増やせる可能性
iDeCoは、自分で選んだ投資信託などで運用します。株価が上がれば資産が増え、その運用益には税金がかかりません(通常は20.315%かかる)。
長期間(20年、30年)運用することで、複利効果により掛金以上の大きな資産を作れる可能性があります。もちろん、定期預金タイプを選んで元本確保にすることも可能です。
デメリット:原則60歳まで「絶対におろせない」資金拘束
個人事業主にとって最大のリスクがこれです。iDeCoは「年金」なので、原則として60歳になるまで、どんなにお金に困っても引き出すことができません。
事業が傾いても、自分が病気になっても、iDeCoのお金は使えません。この「資金拘束」のリスクは、会社員以上に重く考える必要があります。
また、加入時や毎月の手数料がかかる点も地味なデメリットです。
おすすめな人:余裕資金で積極的に資産形成したい人
「当面の運転資金は十分確保できている」「60歳まで絶対に使わないお金がある」という方は、iDeCoの非課税メリットを活かして積極的に増やすのがおすすめです。
どっちを優先?個人事業主のための最強ポートフォリオ
両方の特徴を踏まえた、おすすめの加入ステップです。
ステップ1:まずは「小規模企業共済」で守りを固める
まずは小規模企業共済に加入し、無理のない範囲(月1万円~)から始めましょう。
資金繰りに困ったときの「貸付」という保険機能を確保しつつ、節税メリットを享受します。掛金の増減はいつでも可能なので、調子が良いときは月7万円(MAX)まで増額し、厳しいときは1,000円まで下げることもできます。
ステップ2:余裕があれば「iDeCo」で攻める(併用可能!)
小規模企業共済を満額(月7万円)やってもまだ資金に余裕がある、あるいはもっと積極的に運用で増やしたい場合は、iDeCoを追加します。
小規模企業共済とiDeCoは併用可能です。両方満額なら、月額合計13万8,000円、年間165万6,000円もの所得控除を作ることができます。これは驚異的な節税効果です。
▶ 個人事業主の節税対策ベスト10 | 伸びている経営者が必ずやっているキャッシュ最大化術
国民年金基金との組み合わせ(iDeCo枠の共有に注意)
もう一つ、「国民年金基金」という制度もありますが、これはiDeCoと枠(月額6.8万円)を共有します。
国民年金基金は「終身年金」が魅力ですが、インフレに弱い(固定金利)という弱点もあります。インフレ対策ならiDeCo(株式運用)、長生きリスク対策なら国民年金基金、と使い分けましょう。
知っておきたい出口戦略(受け取り方)の違い

積み立てたお金は、最後に戻すときに税金がかかります。出口戦略も重要です。
廃業・退職時の税金はどうなる?(退職所得控除の活用)
小規模企業共済(廃業時)やiDeCo(60歳以降)で一括で受け取る場合、どちらも「退職所得」扱いになります。
退職所得は税制優遇が非常に大きく、「退職所得控除」という枠内であれば税金がかかりません。
- 勤続(加入)20年以下: 40万円 × 年数
- 勤続(加入)20年超: 800万円 + 70万円 × (年数-20年)
例えば30年加入していれば、1,500万円までは無税で受け取れます。
法人成りした時の扱いは?
- 小規模企業共済: 個人事業を廃業して法人成りした場合、解約手当金を受け取ることもできますが、「契約者の地位」を引き継いで継続することも可能です(役員になればOK)。
- iDeCo: そのまま個人として継続可能です(掛金の上限が変わる場合あり)。
法人化を視野に入れている場合でも、小規模企業共済は無駄になりません。
▶ 法人化のベストタイミングは?売上・利益いくらから?プロの判断基準
「小規模企業共済とiDeCo」まとめ
- 共通点:掛金が全額所得控除になる最強の節税ツール。
- 小規模企業共済:元本保証、貸付制度あり、途中解約可。流動性が高い。
- iDeCo:運用益非課税、60歳までロック。資産形成向け。
- 優先順位:資金繰りに対応できる「小規模企業共済」が先。余裕があれば「iDeCo」。
- 出口:どちらも「退職所得」として受け取れば税負担は軽い。
「節税」と「老後資金」、そして「万が一の資金繰り」。これらを同時に解決できる小規模企業共済は、個人事業主にとって必須の装備と言えます。
まずは資料請求や銀行窓口で、小規模企業共済の申し込みから始めてみてはいかがでしょうか。
「個人事業主の退職金」に関するよくある質問
節税(所得控除)のメリットはありません。税金がゼロなら控除しても意味がないからです。ただし、将来のための積立としては意味があります。資金が厳しいなら、赤字の年は掛金を最低額(1,000円や5,000円)まで減額して継続することをおすすめします。
税率30%(所得税20%+住民税10%)の人で試算すると、合計掛金は年額約165万円。これに対する節税額は年間約50万円にもなります。利回りに換算すると驚異的な数字です。資金に余裕があるなら併用が最強です。
はい、どちらも可能です。小規模企業共済は500円単位で増減額でき、支払いを止める「掛金止め」も可能です(再開も可)。iDeCoも年1回金額変更が可能で、加入者資格を維持したまま掛金を0円にする(運用指図者になる)こともできます。
積み立てた掛金の範囲内(7~9割程度)で、事業資金を借り入れできる制度です。最大の特徴は「審査がない」こと。自分が積み立てたお金を担保にする形なので、窓口に行けば即日(または数日)で借りられます。金利も低く、銀行融資が難しいときの命綱になります。
iDeCoは従業員や専従者も加入できます(各自で申し込み)。一方、小規模企業共済は原則として「事業主(経営者)」と「共同経営者」しか加入できません。従業員や単なる専従者は加入不可です。
はい、あります。投資信託で運用する場合、市場環境によっては資産が減る(元本割れ)リスクがあります。絶対に損をしたくない場合は、商品選びで「定期預金」タイプを選べば元本は確保されますが、インフレリスクには弱くなります。
小規模企業共済は、法人成りして役員になれば契約を引き継げます。あるいは、個人事業廃業として解約手当金を受け取り、それを法人の資本金に充てることも可能です。iDeCoは、法人の役員として加入を継続できます(掛金上限は月2.3万円等に変わる場合があります)。
いいえ、事業の「経費」ではありません。個人の「所得控除(小規模企業共済等掛金控除)」として処理します。したがって、事業用口座から引き落とした場合の勘定科目は「事業主貸」となります。決算書の経費欄には載せられませんので注意してください。
▶ 個人事業主は売上いくらで税理士に頼むべき?依頼するメリットと費用相場
あります。特に小規模企業共済は加入年齢制限がなく、60歳以上でも加入可能です。70歳まで事業を続けるなら、10年間で掛金を全額控除しつつ退職金を作れます。iDeCoも加入可能年齢が65歳まで拡大されましたが、受給開始が遅くなる点には注意が必要です。
小規模企業共済は、中小機構と業務委託契約を結んでいる団体(商工会、商工会議所、青色申告会など)や金融機関の窓口で申し込みます。iDeCoは、証券会社や銀行などの運営管理機関を選んで、ネットや窓口で申し込みます。SBI証券や楽天証券などのネット証券が手数料も安く人気です。





